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消滅時効(民法改正)

2020年4月施行の民法改正により、消滅時効についての条項が改正されることになり
ました。

1 消滅時効期間の統一化
  まず、民法改正前は、例えば、医師の患者に対する診療報酬債権は3年(旧民法17
  0条1号)、飲食代のツケ払いは1年(旧民法174条4号)など、職業別の短期消
  滅時効が定められていましたが、職業別でこのような区別をする合理的な理由を見出
  すことができず、規律の内容が複雑であるとの指摘があり、改正民法では、職業別短
  期消滅時効は廃止されました。
  そして、職業別短期消滅時効を廃止するだけの改正では、債権の消滅時効が10年と
  長期化してしまうことから、原則的な消滅時効を短縮すべきであるとの議論があり、
  改正民法166条1項は、時効の起算点と時効期間については、「権利を行使するこ
  とができる時」(客観的起算点)から10年間という時効期間を維持したうえで、
  「権利を行使することができることを知った時」(主観的起算点)から5年間という
  時効期間を新たに設けて、権利を行使しないまま、いずれかの時効期間が満了したと
  きは、債権は消滅することになりました。
  また、改正前は、商事消滅時効(旧商法522条)も存在していましたが、改正後は
  廃止され、消滅時効期間が統一されることになりました。

2 不法行為による消滅時効
  不法行為損害賠償請求権の権利期間行使制限については、民法改正前は、損害及び加
  害者を知ってから3年、又は、行為の時から20年とされており、20年の期間制限
  は、判例によると除斥期間(期間の経過によって権利が当然に消滅する)とされてい
  ましたが、改正民法724条は、20年の期間制限についても、消滅時効であること
  が明示されました。
  そのため、不法行為損害賠償請求権については、主観的起算点から3年間、客観的起
  算点から20年間のいずれかの時効期間が満了したときは、債権は消滅することにな
  りました。

3 人の生命又は身体の侵害による損害賠償請求権の例外
  改正民法は、人の生命又は身体の侵害による損害賠償請求権の消滅時効について、そ
  の法益の重大性を考慮して、時効期間について長期化の特則を設けています。
  債務不履行に基づく損害賠償請求権については、客観的起算点から「10年」の時効
  期間を「20年」と修正し(改正民法167条)、不法行為に基づく損害賠償請求権
  については、主観的起算点から「3年」の時効期間を「5年」と修正しています(改
  正民法724条の2)。
  そのため、人の生命又は身体の侵害による損害賠償請求権については、債務不履行を
  理由とするものであれ、不法行為を理由とするものであれ、主観的起算点から5年、
  客観的起算点から20年のいずれかの時効期間が満了したとき、債権は消滅すること
  になりました。

4 時効障害事由
  民法改正前は、時効障害事由として、時効期間の経過がリセットされて新たな時効期
  間が進行する「時効の中断」と、時効完成間際に特定の事由が生じた場合に一定期間
  時効が完成しない「時効の停止」が定められていましたが、「中断」の通常の言葉の
  意味と法律効果が異なること、一定の事由により中断すると規定しながら、手続が途
  中で終了した場合は、遡って時効中断の効力が生じないとされていること、判例上認
  められている裁判上の催告が条文からは読み取れず、その範囲が不明確であるとして、
  改正民法では、「時効の中断」を「時効の更新」、「時効の停止」を「時効の完成猶
  予」という用語にそれぞれ改め、各時効障害事由を整理、再構築しています。
  時効の完成猶予については、従来の停止事由(改正民法158条から161条参照。
  なお、改正前は、天災等による時効の停止期間を2週間としていましたが、改正民法
  161条では、完成猶予期間を3ヶ月としています。)に加えて、催告(改正民法1
  50条1項)、裁判上の請求(改正民法147条1項)、強制執行(改正民法148
  条1項)又は仮差押えの申立て(改正民法149条1項)があったときも、時効の完
  成猶予事由とされています。
  そして、確定判決等によって権利関係が確定した場合(改正民法147条2項)、強
  制執行手続が終了した場合(取下げまたは法律の規定に従わないことによる取消しの
  場合を除く・改正民法148条2項)、承認があった場合(改正民法152条1項)
  に、時効の更新の効力が生じるとされています。
  また、権利者からの訴訟提起を回避し、協議による円満な解決を図るという紛争解決
  手段を尊重する趣旨で、新たに「協議の合意」が時効の完成猶予事由として定められ
  ました。具体的には、権利についての協議を行う旨の合意を書面で行った場合、①そ
  の合意から1年経過時、②1年未満の期間を定めた場合はその期間経過時、③協議を拒
  絶する旨の通知が書面でされたときは、その通知から6ヶ月経過時、のいずれか早い
  時までの間、時効の完成が猶予されることになります(改正民法151条1項)。

5 経過措置
  なお、民法改正の施行日は2020年4月1日であり、施行日前に債権が生じた場合
  (施行日以後に債権が生じた場合であって、その原因である法律行為が施行日前にさ
  れたときを含む。)における消滅時効の援用、消滅時効期間については、旧法による
  こと(附則10条1項、4項)、時効障害事由は、その事由が発生した時が施行日前
  であれば、旧法によること(附則10条2項)、協議による時効完成猶予は、合意が
  書面でされた時が、施行日後でなければ、適用されないことになります(附則10条
  3項)。
  また、不法行為による損害賠償請求権については、附則35条により、施行日に、客
  観的起算点から20年経過していなければ、20年の除斥期間ではなく時効期間とし
  て扱うこと、人の生命又は身体の侵害による損害賠償請求権について、主観的起算点
  から3年を経過していなければ、3年の時効期間が5年に修正される点に注意が必要
  です。

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