2022-10-17 |
2020年4月に改正民事執行法が施行されました。
本改正の内容は、主に①執行手続の実効性確保のための財産開示手続きの見直し、②第三者からの情報取得手続きの新設となります。
①財産開示手続きの見直し
2020年4月の民事執行法改正以前にも、強制執行手続の実効性確保のため、財産開示手続きが定められていましたが、財産開示手続期日の不出頭等に対し、30万以下の過料(行政罰)という決して重いとは言えない制裁しか定められていなかったこと、申立権者が限定されており、財産開示手続きのために改めて訴訟を提起しなければならない場合もあったことなどから、実効性に乏しいものと評価せざるを得ないものでした。
しかし、今回の改正により、財産開示手続期日の不出頭等に対する制裁が6ヶ月以下の懲役または50万円以下の罰金(刑事罰)とされました。
これは、今後の運用次第というところもありますが、少なくとも法定刑上は、財産開示期日の不出頭等に対する十分な抑止力足りうる制裁が定められたと評価できるものと思われます。
また、本改正により、強制執行に必要な債務名義を有していれば、確定していなくても、その種類を問わず(公正証書、仮執行宣言付判決、支払督促等を含む。)申立が可能となり、手続を取るハードルは緩やかになったと評価できると思われます。
②第三者からの情報取得手続
また、本改正により、債務名義を有する者であれば、裁判所に対して財産開示手続の申立てをし、債務者の財産に関する情報のうち(ⅰ)預貯金については銀行等に対し(ⅱ)不動産については登記所に対し、(ⅲ)勤務先については市町村等に対して、強制執行の申し立てに必要な情報の提供を命じてもらうことができます(ただし、(ⅱ)、(ⅲ)の情報については、それに先立って債務者の財産開示手続きを実施する必要がある他、(ⅲ)の申立権者は、養育費等の支払いや、生命又は身体の侵害による損害賠償金の支払いを内容とする債務名義を有している債権者に限られます。)。
これまで、債権者が、債務者の財産が不明である場合に、債務者の財産を調査する方法は限定的であり、実効性にも問題がありましたが、当該手続きの新設により、債務者の財産調査の実効性が高まることが期待されます。
以上のとおり、本改正により、強制執行の実効性は高まったといえるでしょう。
債権回収をご検討の場合には、財産開示手続、第三者からの情報取得手続等を取ることの検討も含め、債権回収にもっとも効率的かつ実効的な方策を提案させていただきますので、一度、ご相談いただければと思います。
弁護士 大本健太
2022-10-12 | 弁護士の業務内容 >事務対応について >
事務スタッフとして長年働いてきて、破産した企業の破産管財人弁護士を補助する事務を担当してきました。企業の倒産については、労働者を雇用していた場合、労働者の賃金が未払となったままで破産手続に入ることもよくあり、その場合、労働者は賃金を支払ってもらえないまま退職(解雇)となることがほとんどです。こういった時のために、労働者の未払賃金を立替払いする制度がありますので、この制度について少しお話させていただきます。
未払賃金立替払制度とは、企業倒産により賃金が未払いのまま退職した労働者に対し、未払賃金の一部を独立行政法人労働者健康安全機構が立替払をする制度です。
立替払いを受けるには要件があり、事業主にかかる要件は、倒産した事業主が、労災保険の適用事業の事業主、かつ、1年以上事業を実施しており、倒産したこと(法律上の倒産及び中小企業事業主であれば事実上の倒産でも可能)が要件となります。
また、労働者にかかる要件は、①破産手続開始等の申立(事実上の倒産の場合は認定申請日)の6か月前の日から2年間のうちに退職、②未払賃金額等について、法律上の倒産の場合には、破産管財人等が証明(事実上の倒産の場合には、労働基準監督署長が確認)、③破産手続開始の決定等(事実上の倒産の認定)の日の翌日から2年以内に立替払請求するという3つの要件があります。
立替の対象となる賃金は、退職日の6か月前から立替払請求日の前日までに支払期日が到来している未払賃金(定期給与と退職金が対象で、賞与は対象外です)です。ただし、総額2万円未満のときは対象外となります。
立替額については、未払賃金の総額の8割となり、下記のとおり限度があります。
退職日における年齢 | 未払賃金総額の限度額 | 立替払の上限額 |
45歳以上 | 370万円 | 296万円(370万円×0.8) |
30歳以上 |
220万円 | 176万円(220万円×0.8) |
30歳未満 | 110万円 | 88万円(110万円×0.8) |
例)退職日に35歳で未払賃金が200万円の場合は、立替払いを受けられる額は160万円 退職日に35歳で未払賃金が300万円の場合は、立替払いを受けられる額は176万円
労働者健康安全機構が立替払いした総額については、事業主(破産者)に対する債権となり、破産管財人等に対し、労働者健康安全機構が求償します。
破産時は大なり小なり混乱が生じ、痛みを伴うものですが、労働者の賃金は生活の基盤となるものなので、制度を有効利用していただき、少しでも円滑に手続きを進めることができればと思います。
(事務スタッフ 山村)
2022-09-01 | その他 >
先日、私の師である、弁護士井口寛司先生を偲ぶ、お別れの会に出席してきました。
私は、弁護士1年目から独立するまでの7年強、井口先生の下で勤務弁護士として仕事をするなか、井口先生から、弁護士業とは何なのか、単なる知識、技術だけでなく、弁護士としてのあるべき姿、矜持等、多くのことを教わりました。
人として、経営者としての考え方、仕事の哲学についても、多くを学ばせていただきました。
私が司法修習生だった頃、はじめて井口先生とお会いしたとき、「おそろしい弁護士になりたくないか」と誘っていただいた井口先生の示した弁護士像は、今でも私の目指すところです。
私は独立した立場であり、井口先生の事務所を引き継いだわけではないですが、勝手ながら、井口先生の志は引き継がせていただくつもりです。そう思うと、あらためて身が引き締まる思いです。
また、今回、お別れの会で井口先生の仕事ぶり、功績、軌跡にあらためて触れ、私自身、事務所含め、もっともっと成長、チャレンジしていかなければならないと自らを叱咤激励する機会までいただいたものと思っています。
井口先生への感謝は尽きませんが、もう、お会いしてお話しする機会はありません。コロナ禍で難しかったかもしれませんが、会えるうちに、無理にでも押しかけてお会いしておけばよかったとも思います。
心より井口先生のご冥福をお祈りいたします。
弁護士 松谷卓也
2022-07-28 | その他 >
当事務所と同じビルにある、アサヒフーズ株式会社 様・神戸チョコレート株式会社 様の、「バディーチョコレート」をいただきました。
KOBE CHOCOオンラインショップでは、バディーチョコレートシリーズの、10種類のフレーバーに加えて、現在は期間限定で「フルーツ&ナッツ ホワイト」を販売されているそうです!
このようにたくさんあるフレーバーの中で個人的に特に好きなものが「ストロベリー&フランボワーズ ホワイト」です!
フリーズドライのフルーツの爽やかさと、ミルクしっかりのホワイトチョコレートの相性が抜群で、コーヒーや紅茶のお供はもちろん、スパークリングワインなどといただいても、とても美味しかったです!
催事やオンラインで販売されているようですが、同じビルの2階で今年の秋ごろカフェをオープンされると聞いており、現在は改装工事中だそうです。
今から楽しみにしており、オープンされたらぜひ伺いたいと思います。
(事務スタッフ 髙木)
2022-06-28 | 季節のおたより >
6月14日に、近畿地方の梅雨入りが発表されました。
平年より遅い梅雨入りだそうです。
感染症対策としては湿度がある程度ある方が望ましいとされていますが、これからの季節、湿度が高いと不快に感じるので難しいところです。
関東では平年より20日ほど早く梅雨明けしたとのことで、関西でももうすぐ梅雨明けすると見られ、暑い時期が平年よりも早く始まります。
空調の温度調整に配慮しておりますが、当事務所では引き続き、感染予防及び拡散防止のため、冷房を入れている際も窓を少し開けて換気をしています。
暑い、寒いと感じた場合は、設定温度を調整させていただきますので、お打ち合わせ中でもご遠慮なくお伝えください。
(事務スタッフ 平尾)
2022-06-15 | 弁護士の業務内容 >
ラジオ関西の番組「ばんばひろふみ!ラジオ・DE・しょー!」の「知性の玉手箱」コーナーに、6月15日、ゲスト出演しました。
事業承継、ハラスメントに関する通報窓口、コロナ禍後の支援等、中小企業に対する弁護士としての支援業務についてお話をさせていただきました。
はじめてのラジオ出演でしたが、ばんばさんの軽快なリードで、自然体でお話することができました。
今回のラジオ出演が、弁護士が中小企業の支援において果たす役割を知っていただく一助になれば嬉しい限りです。
なお、リアルタイムで聴けなかった場合も、radikoのアプリで1週間(6月22日まで)聴いていただくことができますので、興味のある方はぜひお聴き下さい。
radiko タイムフリー (11時06分30秒ごろから)
パソコンでも聴けます。
(2022年6月23日追記)
トーク内容が公開されました。ぜひご覧ください。
ラジオ関西 ラジトピ
弁護士 松谷卓也
2022-05-31 | 判例・法令等 >
テレビ番組に出演していたプロレスラーの女性がSNS上での誹謗中傷を受け自ら命を絶ってしまった事件や、池袋暴走事故の遺族の方に対するSNS上の誹謗中傷の事件は記憶に新しいことかと思います。こういった事件を受け、2021年4月21日、「特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律(=プロバイダ責任制限法)の一部を改正する法律」が成立しました。
施行日は、公布の日(同年4月28日)から1年6月を超えない範囲で定められますので、遅くとも2022年10月頃には新法が施行されることとなります。
発信者情報を開示するには、今まではコンテンツプロバイダに対する仮処分手続の後、アクセスプロバイダに対する訴訟手続という二度の裁判手続が必要でしたが、今回の改正では、「発信者情報開示命令」という制度を作り、一度の非訟手続で発信者情報の開示ができるようになりました。被害者は、コンテンツプロバイダに対する発信者情報開示命令申立事件とアクセスプロバイダに対する発信者情報開示命令申立事件を同じ地方裁判所に同時に申立て、両事件は併合され審理されることとなります。
開示命令申立事件の管轄は、相手方(現時点ではコンテンツプロバイダを指すと考えられています)の主たる事業所または営業所の所在を管轄する裁判所とされていますが、東日本であれば東京地方裁判所、西日本であれば大阪地方裁判所へも申立てが可能となりました。
新法の「発信者情報開示命令」制度を利用すれば、現在よりも短い期間と少ない費用で発信者情報が開示されることが予想され、旧法での仮処分手続に必要であった担保金も不要となるなど、被害者にとっては負担が軽減されると思われます。
なお、削除請求については、今回の改正では組み込まれなかったため、従来通り仮処分等の手続を行う必要があります。
匿名をいいことに、ネット上に好き勝手に誹謗中傷を書き込み、被害者を苦しめる事件が後を絶ちません。新法が施行され、そういった被害者が少なくなることを期待するとともに、当事務所としても被害者を助ける役割を担っていきたいと思います。
改正プロバイダ責任制限法引用元:総務省ホームページ
(事務スタッフ 山村)
2022-05-19 | 季節のおたより >
5月も半ばをすぎ、日差しがまぶしく、新緑の美しい季節となりました。
今年も当事務所はクールビズをはじめました。
気象庁から発表された予報によると、今年の夏は気温が平年より高くなる見込みのようです。また、しばらくマスク生活も続きそうですので、熱中症にも気をつけたいと思います。
当事務所では、引き続き基本的な感染症対策として換気、消毒、マスク装着を実施しております。
お打合せやご相談で当事務所へお越しの際には、どうぞお気軽な服装でお越しください。
(事務スタッフ 山村)
2022-05-19 | 判例・法令等 >
令和3年、民法・不動産登記法等の一部を改正する法律が成立しました。その中で、所有者不明土地の発生予防と既に発生している所有者不明土地の利用の円滑化の両面から、不動産登記制度の見直しが図られました。
これまでは、相続登記の申請は義務ではなく、申請をしなくても罰則等はなかったため、相続登記がなされないまま相続が繰り返され、土地共有者がねずみ算式に増加し、所有者の探索に多大な時間と費用が必要となることが、地方を中心に問題となってきました。
また、所有者の住所変更登記等の申請も義務ではなかったため、所有者が住所変更の登記をせず、所在が不明となる場合もありました。
所有者の所在等が不明な場合には、土地が管理されず放置されることが多いうえ、共有者が多数の場合や一部所在不明の場合、土地の管理、利用のために必要な合意形成が困難であり、公共事業や復旧、復興事業が円滑に進まず、民間取引が阻害されるなど土地の利活用を阻害し、土地が管理不全化して隣接する土地への悪影響が発生するなど、社会問題化しています。今後ますます深刻化するおそれがあり、所有者不明土地問題解決は喫緊の課題となっていました。
そこでとられた制度の見直しとして、主な改正項目は、①相続登記の申請の義務化、②住所変更登記等の申請の義務化の2点となります。
① 相続登記の申請の義務化について(令和6年4月1日施行)
⑴ 不動産を取得した相続人に対し、その取得を知った日から3年以内に相続登記の申請をすることを義務付ける【新法第76条の2】。
⑵ 正当な理由がないのにその申請を怠った場合には、10万円以下の過料に処することとする【新法第164条第1項】。
施行日(令和6年4月1日)以前に相続が発生していたケースについても、登記の申請義務は課されます。その場合、施行日とそれぞれの要件を充足した日のいずれか遅い日から法定の期間(3年間)がスタートします。
② 住所変更登記等の申請の義務化について(公布後5年以内施行)
⑴ 所有権の登記名義人に対し、住所等の変更日から2年以内にその変更登記の申請をすることを義務付ける【新法第76条の5】。
⑵ 正当な理由がないのにその申請を怠った場合には、5万円以下の過料に処することとする【新法第164条第2項】。
施行日(公布後5年以内施行)前に住所等変更が発生していたケースについても、登記の申請義務は課されます。その場合、施行日とそれぞれの要件を充足した日のいずれか遅い日から法定の期間(2年間)がスタートします。
登記未了の不動産は、遺産分割協議も行われていなかったり、過去に協議はしたが書面が残っておらず、さらなる相続も発生し、現在の相続人間で認識の食い違いがある等、遺産分割協議も含めた問題になることも多いことから、まず弁護士にご相談いただければと思います。
〈参考〉法務省ホームページ
https://www.moj.go.jp/MINJI/minji05_00343.html
(事務スタッフ 山村)
2022-05-06 | 弁護士の業務内容 >
2021年11月から2022年4月にかけて、神戸市内の某精神科病院における虐待事件等に関する第三者委員会の調査補助者として、患者に対する虐待行為、患者に対する不適切な隔離、その他患者に対する不適切な対応等に関して調査し、報告書を提出していた件について、この5月2日、病院から調査報告書が公表されるとともに、第三者委員会として記者会見を行い、報道されました(調査報告書は当該精神科病院のホームページにおいて公表されています)。
調査事項や範囲、問題点は非常に多岐にわたり、調査報告書自体、公表版の本文だけで234頁にも及ぶものとなりました。
調査中にあらたに発覚した問題も多く、時間や権限の限界もあったため、提言のなかでさらなる調査を行うべきとした事項もありますが、調査自体、第三者委員会としては、できる範囲で徹底的に調査をしたという自負はあります。第三者委員会の立場でなければここまで追及できなかった、構造的な問題や経営陣の問題にまで踏み込んで追及していますので、調査を終えた感想として、第三者委員会の果たす役割の重要性、必要性について、再認識しました。
センセーショナルな虐待行為が発生した精神科病院として非常に社会的注目を浴びている事件で、調査でもさらなる多くの問題点が見つかったこともあり、調査報告書のなかでかなり厳しいことをたくさん書きましたが、膿を出し尽くさないと傷口は治らないという思いで、病院が改善して行けるよう徹底的な調査をしましたので、今回の調査をきっかけに、病院が改善していくことを期待しています。
第三者委員会の提言としては、調査報告書の提言に対応する改善計画の速やかな公表と改善した内容の公表も提言していますので、今後の病院の動向、改善計画書や改善した内容の公表も見守っていきたいと思います。
弁護士 松谷卓也