1 法務デューデリジェンスの目的
法務デューデリジェンス(以下「法務DD」といいます。)は、会社が対象会社について、①買収すべき会社かどうか、②買収するとすれば、買収額はいくらとなるか、③買収実行の障害となる事実はないか、④買収後の経営に影響を与える事実はないか、という観点から、主として法律上の問題点について調査、検討を行うものです。
2 法務デューデリジェンスの範囲
法務DDの範囲は、株主構成、関係会社等、契約関係、労務関係、事業用資産、ファイナンス、訴訟等紛争、許認可、知的財産権、コンプライアンス、環境等の広範囲に及び、法務DDを限定なく、徹底的に実施することは、時間的、金銭的コストの観点からも現実的ではないことが多いです。
そのため、キックオフミーティング等、初動の段階で、業種、企業規模等の対象会社の特徴や想定スキームに応じて、重点項目を決め、これを中心に実施する必要があります。
例えば、製造業であれば、工場用地の不動産使用権原、環境問題、製造物責任についてのリスク管理体制の確認等を重点的に行うべきですし、対象会社の規模が大きく、多数の契約が存在する場合であれば、契約書すべてについて個々に確認するよりは、主要な取引先との間の契約書を優先的に確認するなど、優先順位を決めて調査するべきでしょう。
また、中小企業の場合、簿外の未払労働債務が相当額存在していることが多いですが、従業員数が多い場合など、実際の賃金計算等の事務作業が煩雑なものについては、買い手会社や社労士が当該作業を担当するなどして、DDを効率化する必要があります。
3 法務デューデリジェンスの結果の反映
買い手としては、このような法務DDの結果を踏まえ、①取引の中止、②スキームの変更、③取引価格への反映、④取引価格の支払方法による対応、⑤最終契約条項において対応、⑥リスクの許容(買収後に改善)等の対応策をとることになります。
例えば、買収後、対象会社の重要な取引先との取引継続が困難な場合には、取引の中止や買収価格の減額を検討すべきですし、株式の全部の譲渡を受けられない場合や、簿外債務が存在する可能性がある場合には、会社分割や事業譲渡等へのスキームの変更により簿外債務を引き継がないようにすることを検討すべきです。
また、現在の正確な株主構成が明らかではなく、後日株主代表訴訟を提起される可能性がある場合には最終契約条項において対応する、簿外債務が存在する可能性がある場合には、最終契約条項において対応するなどの対応策をとることになります。
4 結語
中小企業のM&Aの場合、コストの関係で法務DDを実施せずに弁護士が契約書の作成等にのみ関与することがありますが、上記のとおり買収実行にあたり、法務DDは重要なものですので、コストについてはポイントを絞ることで削減するなどしてでも、必ず実行すべきものといえるでしょう。