我が国の人口構造の高齢化、少子化、人口減少は、一般社団法人、一般財団法人や、公益法人などの非営利法人に対しても多大な影響を与えており、福祉事業サービスのニーズの増大及び多様化、生産性の向上の要求、社会保障制度に対する公的財政支出の抑制、法人オーナー世代の高齢化、少子化による人口減少を背景とした競争の激化による、経営規模拡大のためのM&Aや経営の効率化のための企業同士の組織再編、世代間承継等のニーズは、非営利法人においても、営利法人に劣らず存在します。
しかし、非営利法人の多くはその目的において高い公益性を有しており、収益を構成員に分配することを想定していないことなどから、営利法人とは異なる法規制に服し、事業承継の具体的方法や手続きにおいてもその公益性に相応しい実態を維持するための、営利法人とは異なる注意点が存在します。
例えば、資本に着目する株式会社等の営利法人と異なり、人に着目する非営利法人においては、資本多数決が採用されておらず、持ち分が認められていませんので、株式譲渡に相当する出資持分譲渡による事業承継は存在しません。
また、公益性が求められる法人の事業承継に際しては、合併やM&A等を通じて、当初の公益的性格に変質をもたらす事態を回避しなければならないことから、事業承継によって法人の公益性に関わる本質的な事項に変更が生じた場合には、監督官庁の認可を受ける必要が出てきますし、合併に際して、監督官庁への届出や地位承継の認可を受けなければならない場合もあります。
更に、公益性の観点からは、特定の血縁や親族による法人支配、当該公益目的の観点から好ましくない社員による支配は排除される必要があるため、親族理事の人数の制限や、営利法人等の特別の利益を図る活動を行う者を排除する必要があります。
また、特別法に基づく公益法人においては、特定の公益目的の実現のために設立された法人である以上、当該目的に相応しい構成員が求められます。
例えば、医療法人の場合には、社員資格から営利法人が排除されますし、宗教法人においては、宗教活動を行うに相応しい役員であることが求められるといった制約があります。
したがって、事業承継を行うに際しては、事業承継の構成員の変動後もこれらの制約が守られる必要がありますし、自法人の掲げる公益目的に適合する事業承継なのか、事業譲渡や合併の相手の経営理念等が公益性の観点から相手として相応しいかどうかの判断も必要となります。
以上