中小企業のM&Aにおける買収価格については、本来、決まった市場価格というものは存在せず、買主と売主側で事業価値の算定が一致しないことが通例です。
秘密保持契約を締結し、過去の決算書、財務諸表、資金繰り表、事業計画等を入手した後、基本的な価格を算定することになりますが、専門の仲介業者が入っているような案件では、決算書に基づく純資産価格をベースに、のれん代として、数年分の利益を加算して価格を算定するのが相場だと言われるケースもあるようです。
もっとも、買主側の予算もありますし、売主側の希望額もあるでしょうから、最終的には双方の希望額のなかで調整をつけ、折り合いをつけていくことになります。
また、中小企業においては、財務諸表が正しく会計処理されていなかったり、経営管理が不十分である等、価格を減額する要素があることが想定されますし、逆に、例えば、不動産については簿価よりも市場価格が高い場合、買収価格を値上げする要素となりますが、この辺りをデューデリジェンス実施前の基本合意の段階でどこまで考慮するかは難しいところで、最終的にはデューデリジェンスの結果によって価格を増減する可能性があることを前提に、概算額で折り合いをつけることになります。
さらに、買収価格の算定にあたっては、対象会社とのシナジー効果についても想定し、価格への影響を考えておくことが望ましく、デューデリジェンスにおいてその効果の検証や基礎資料の検討を依頼することも効果的で、裏付けなく多大な期待をしすぎず、資料によりきっちりと検証することが重要です。
そして、おおよその金額について協議がまとまった場合は、基本合意書により金額を合意することになりますが、これはあくまでデューデリジェンス実施前の暫定的な金額であるため、この時の価格が最終価格となるのではなく、最終契約時にあらためて最終的な買収価格を決めることを前提に契約を締結する必要があります。
デューデリジェンスの結果、回収可能性の乏しい不良債権、不動産の時価算定等、定量化が可能なリスクは価格へ直接反映することを検討することになります。定量化が困難なシナジー効果の検証結果等についても、可能な限り客観資料に基づき定量化できる範囲で根拠を示して協議することで、割高な買収となることを避けることができます。
そのうえで、基本合意書における評価基準時点とクロージング日時点の純資産の増減額をもって最終の買収価格を調整することもありますが、クロージング日時点で再度全ての資産・負債について再評価する必要があり、手間とコストがかかるので、どこまで調整するかはケースバイケースとなります。
なお、アーンアウト条項として、クロージング後の一定期間の売上や利益について目標設定し、その達成の有無や度合いに応じて支払金額を調整する方法、例えば、クロージング日時点で買収価格の一定割合を支払い、残りは目標達成された場合に支払うという方法で、双方の希望する買収価格の調整を折衷案的に行うということも方法としてあります。