1 事業承継における生命保険の活用
事業承継を行う際には、後継者が株式を相続したことによる代償金の支払、新体制を軌道に乗せるまでの売り上げ低下の埋め合わせ、勇退した先代経営者のその後の生活費等、資金需要に迫られる場面が多々あります。
このような場合に備えて、事業承継の際には、他の事業承継のスキームと一緒に生命保険を活用することが考えられます。
2 代償金の支払、相続税の支払い等の対策
相続税を支払う際に、相続財産中または相続人である後継者の財産に現金がない場合、相続税の支払いのために先祖代々の財産・事業用資産の売却をして現金を捻出したり、それらの財産を物納したりすることを検討する必要があります。
また、先代経営者の相続財産に預貯金があっても、相続発生直後の遺産分割未了の段階では、相続税等の資金需要に充てることはできないことが多く、高額の相続税の負担があると、後継者のその後の生活を圧迫することにもなりかねません。
この点、保険契約者兼被保険者を先代経営者、受取人を後継者とした生命保険に基づき支払われた死亡保険金は遺産分割を待たずに受取人に支払われるうえ、原則として先代経営者の遺産に当たらず、特段の事情のない限り、特別受益にも当たらないため(特段の事情については最高裁判所平成16年10月29日判決)、遺産分割の対象や遺留分算定基礎財産にも含まれません。
したがって、上記の様な保険契約を活用することにより、相続税の負担の他、代償金の支払い等の資金需要に対応することが考えられます。
3 先代経営者の生活資金の確保
事業承継により経営者が交代し、先代経営者が取締役等から退任すると役員報酬等がなくなって収入が減少し、生活資金の確保が困難になる場合があり、先代経営者がこのような事態に不安を感じると、事業承継が適時にスムーズに進まないおそれがあります。
このような事態への対策として、年金型の生命保険を活用して、事業承継後の先代経営者の生活資金を捻出する、先代経営者在職中は急な死亡等に備えて長期平準型の定期保険を契約しておいて、事業承継の際に解約して高額の解約返戻金を先代経営者が受け取る等の方法が考えられます。
4 会社の資金需要への対応
先代経営者が引退する際の退職慰労金の支払い、先代経営者が死亡し、後継者以外の相続人が株式や事業用資産(先代経営者が会社に対して貸付していたものなど)等のため、会社が急な資金繰りを迫られる場合があります。
このような場合に備え、会社を契約者、経営者を被保険者、保険金受取人を会社とする生命保険契約を締結し、先代経営者死亡時に支払われた保険金を上記の資金需要に充てることが考えられます。
5 結語
以上のような対策を含め、事業承継を行うにあたっては、専門的な知見から、生じうる問題を想定し、事前に計画を立て、対応しておく必要があるものですので、将来的に事業承継をご検討の際には、お早目に弁護士に相談することをお勧めします。
以上