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事業用不動産の承継

 経営者個人名義の不動産を事業用財産として使用している場合、相続によって事業に関与しない相続人が所有者又は共有者となってしまい、相続による事業承継後の会社経営に影響を及ぼしてしまう可能性があります。このため、親族間で事業承継を行う場合には、事業主体が法人であれば法人が事業用不動産を買い取る、あるいは後継者に事業用不動産を集中させることを検討する必要があります。
 事業用不動産を後継者個人に集中するための手段としては、売買、生前贈与、遺贈、相続といった選択肢が考えられますので、以下説明させていただきます。
⑴ 売買
 後継者が買取資金を用意できる場合には、生前に事業用不動産を売買で譲渡しておくことが確実です。売買による場合、当事者の合意により、任意に売買価額を決定できる点がメリットですが、あまりにも時価からかけ離れた金額だと、後から売買の有効性を争われる可能性や税務上の問題(相続税法7条)が生じる可能性がある点には注意が必要です(なお、不動産の評価額は評価方法によって大きく金額が変わる可能性があります。)。
⑵ 生前贈与
 生前贈与する場合、贈与税がかかるため、まず、贈与財産の相続税評価額を算定し、贈与税額を試算します。そのうえで、贈与契約書を作成し、当事者間の合意を客観的に証明するとともに、後継者が贈与税の申告・納付をします。
 相続開始の1年前までに行われた贈与であれば、遺留分の計算上、相続財産として算入されるため(民法1044条1項)、当該贈与を含めた相続財産全体における相続分を算定した結果としてほかの推定相続人の遺留分を侵害する場合、遺留分侵害額を価額弁償しなければならなくなる可能性があります。新しい日付の贈与から順番に遺留分侵害額を負担する(民法1047条1項3号)ため、事業用不動産のうち、重要なものや価値が高いものほど、早期に生前贈与しておく等、遺留分を考慮して生前贈与を活用するか検討することになります。
⑶ 遺贈
 遺贈により後継者に事業用不動産を承継する場合、どの財産を誰に引き継がせるか、遺言書に明記しておきます。
 遺贈の場合には、推定相続人以外にも贈与でき、条件をつけることもできますが、遺留分侵害額の計算上、遺贈は贈与に優先して負担する(民法1047条1項1号)ため、遺贈においても遺留分を考慮しておく必要があります。なお、複数遺贈を行う場合には、遺留分侵害額負担の順番を遺言で指定することも可能です(同2号)。
⑷ 相続
 相続により後継者に事業用不動産を承継させる場合、どの財産を誰に引き継がせるか、本人の意思を明らかにしておくため、遺言書を作成しておくことが望ましいです。
 遺言により事業用不動産を後継者に相続させる場合も、遺留分について検討しておくことが必要です。特に、不動産の場合は固定資産評価額・相続税評価額・時価等、評価方法によって大きく金額が変わる可能性があり、遺留分減殺請求された場合、価額弁償のためにキャッシュが必要になる可能性も踏まえて、遺言全体の内容や承継スキームを検討しておくべきです。

 以上の手段で事業用不動産を後継者個人に集中することが考えられますが、それぞれの手段には、上述の内容を含め、メリットやデメリットがあり、相続人間の紛争や税務上の問題を回避する観点から、事業承継をお考えの際には、法律の専門家に相談することをお勧めします。

 

以上

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