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ハラスメント関連法令の改正

令和2年6月に各種ハラスメントに関する企業の雇用管理上の措置義務に関する規定が改正されました(ただし、中小企業については、パワハラ措置義務に関する規定は令和4年3月31日までは努力義務となります。)。改正の概要は以下のとおりです。

1 パワハラの定義の新設

雇用管理上の措置義務の対象となる言動を画するための定義として、パワハラが「職場において行われる優越的な関係を背景とした言動であって、業務上必要かつ相当な範囲を超えたものにより、その雇用者の労働者の就業環境が害される」ものと規定されました(労働施策総合推進法30条の2第1項)。

「事業主が職場における職場における優越的な関係を背景とした言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針」(いわゆるパワハラ指針)においては、パワハラの定義を「①優越的な関係を背景とした」言動、「②業務上必要かつ相当な範囲を超えた」言動、「③就業環境を害すること」の3つの要素によると分析し、この①から③までの要素をすべて満たすものを職場におけるパワーハラスメントとする、と規定されています。

2 ハラスメントについて相談したこと等を理由とする不利益取り扱いの禁止の新設

パワハラ、セクハラ及び妊娠・出産・育児休業・介護休業に関するハラスメント(マタハラ)に関し、その相談をしたこと等を理由として、事業主が不利益取扱いをすることが禁止されました(労働施策総合推進法30条の2第2項・30条の5第2項・30条の6第2項、男女雇用機会均等法11条2項、11条の3第2項、17条第2項、18条第2項、育児介護救護法25条2項、52条の4第2項、52条の5第2項。)

具体的には、ハラスメント相談を行ったこと、会社が行うハラスメントの事実関係の確認に協力したこと、都道府県労働局長による紛争解決の援助を求めたこと、機会均等調停会議・両立支援調停会議・紛争調停委員会による調停の申請をしたこと等を理由とする解雇、雇止め、契約更新回数の引き下げ、退職や正社員を非正規社員とするような契約内容変更の強要、降格、減給等の不利益取り扱いは禁止されます。

今回の改正前においても、セクハラ及び妊娠・出産・育児休業・介護休業に関するハラスメント(マタハラ)については、措置義務の一つの内容として「ハラスメントに関し相談をしたこと又は事実関係の確認に協力したこと等を理由として、不利益な取り扱いを行ってはならない旨を定め、労働者にその周知、啓発すること」が規定されていました。

また、司法上も、ハラスメント相談をしたことを理由に解雇をすれば、解雇権の濫用として無効となり得るため、改正前においても、このような不利益取り扱いに対する歯止めは掛けられていたといえます。

今回の改正は、より直接的に不利益取扱を禁止することにより、ハラスメントを潜在化させずに解決していくべきという方向性を強く打ち出したものといえるでしょう。

当該規定に違反した場合には、助言、指導、勧告及び企業名公表の対象となりますし、私法上も不利益取扱いは違法・無効となります。

3 外部の者からの又は外部の者に対するハラスメントへの対応の強化

ハラスメントは、同一企業内の労働者間でのみ起こる問題ではなく、いわゆる「カスタマーハラスメント」とも呼ばれる、取引先からのパワハラや顧客等からの著しい迷惑行為など、社外の労働者や顧客等からのセクハラに対しても、同一企業内でのハラスメントに類似するものとして対応すべきとの議論がなされ、法令上、指針上の手当てがなされることになりました。具体的には以下のとおりになります。

(1)外部からのパワハラ(いわゆるカスタマーハラスメント)について

法令上の措置義務としてではありませんが、パワハラ指針において、事業主が行うことが望ましい取り組みとして言及されることになりました。

具体的には相談窓口の設定、周知、相談に適切に対応可能な体制の整備、被害者のメンタルヘルス不調への相談対応、他の事業主が雇用する労働者や顧客等からの著しい迷惑行為への対応マニュアルの作成、研修の実施といった取り組みを行うことが望ましいとされています。

このように、カスタマーハラスメントへの対応は、今回の改正で措置義務とはされず、パワハラ指針で「望ましい」取り組みが示さているにとどまります。

しかし、カスタマーハラスメントによって、現場の従業員の離職や、従業員が精神疾患になる等のダメージを受ける場合もあるばかりか、これを放置すると、企業が安全配慮義務違反の責任を問われる可能性もあります。

バイオテック事件(東京地判平成11年4月2日判決)では、従業員が顧客からストーカー行為を受けていたという事案について、「従業員が顧客から暴行、傷害、脅迫等の危害を加えられることが予見される場合、使用者はそれを防止するために必要な措置をとるべき義務を負うと解するのが相当である。」と判示されており、企業にとって、カスタマーハラスメントの対策は喫緊の課題と言えるでしょう。

(2)外部からのセクハラについて

外部からのセクハラについては、改正前から、措置義務の対象とされていましたが、今回の改正で、セクハラ指針上、セクハラ言動を行う者に、取引先等の他の事業主又はその雇用する労働者、顧客、患者又はその家族、学校における生徒等も含まれることは明記されました。

また、外部からのセクハラへの事後対応の内容として、「必要に応じて、他の事業主に事実確認への協力を求めることも含まれる。」、「必要に応じて、他の事業主に再発防止に向けた措置への協力を求めることも含まれる。」ことが定められています。

なお、後記のとおり、協力の求めを受けた取引先の個人事業主等は、これに応じるようにする努力義務があります。

(3)外部へのハラスメントについて(但し、育児休業、介護休業に関するハラスメントを除く。)

外部へのハラスメントは法令上の措置義務の対象ではありませんが、パワハラ指針、セクハラ指針、マタハラ指針において、事業主が雇用する労働者による、個人事業主やインターンシップを行っている者等、労働者以外の者に対する言動にも注意を払うよう配慮する努力義務、事業主がハラスメントを行ってはならない旨の方針の明確化を行う際に、当該事業主が雇用する労働者以外のものに対する言動についても、同様の方針を併せて示すことが望ましいこと、これらの者から職場におけるハラスメントに類すると考えられる相談があった場合には、その内容を踏まえて、必要に応じて適切な対応を行う努力義務等の言及がなされています。

(4)外部へのセクハラ

外部へのセクハラについては、他の事業主が男女雇用機会均等法に基づき講ずる措置の実施に関する必要な協力を求められた場合には、これに応ずるよう努めるべきと規定されました(雇用機会均等法11条3項)。

これを受けて、セクハラ指針では、「他の事業主から、事実関係の確認等の雇用管理上の措置の実施に関し必要な協力を求められた場合には、これに応ずるように努めなければならない。また、同項(男女雇用機会均等法11条3項)の趣旨に鑑みれば、事業主が、他の事業主から雇用管理上の措置への協力を求められたことを理由として、当該事業主に対し、当該事業主との契約を解除する等の不利益な取り扱いを行うことは望ましくないものである。」と言及されています。

4 結語

上記のハラスメント関連指針においては、従業員へのハラスメント研修を行うことが求められているところ、当事務所では、クレーマー対応含むカスタマーハラスメント研修、セクハラ、パワハラ研修等の各種ハラスメント研修を行っている他、同指針でも設置が求められているハラスメントに関する相談、苦情窓口を含む社外通報窓口としての業務を行っております。

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