男女雇用機会均等法や育児介護休業法により、すべての企業において、マタハラ防止のための雇用管理上の措置義務が課せられ、マタハラに関する厚労省の指針(以下単に「指針」といいます。)が2020年6月1日から告示されています。
措置義務が課せられるマタハラの内容につき、今一度、確認する必要があるかと思いますので、以下、整理させていただきます。
⑴ 総論
男女雇用機会均等法11条の3第1項では、事業主の義務として、女性労働者が妊娠・出産したこと、労働基準法第65条第1項・2項の規定による休業を請求したことその他の妊娠又は出産に関する事由であって厚生労働省令で定めるものに関する言動により当該女性労働者の就業環境が害されることのないよう必要な体制の整備、措置を講じる義務が定められています。
また、育児介護休業法25条1項では、事業主の義務として、労働者が育児休業、介護休業その他子の養育又は家族の介護に関する厚生労働省令で定める制度又は措置の利用することに関する言動により当該労働者の就業環境が害されることのないよう必要な体制の整備、措置を講じる義務が定められています。
マタハラ(マタニティハラスメント)という名称ではありますが、妊娠・出産・育児に限られず、介護休業等に関するハラスメントもマタハラに分類されることもあるようです(男性の育休に関するものはパタハラ、介護休業に関するものはケアハラということもあります。)。
また、妊娠・出産に関しては女性のみが被害者として想定されているのに対し、育児・介護に関しては男性も被害者となり得る点に注意が必要です。
⑵ 措置義務が課せられるハラスメントの内容
措置義務が課せられるマタハラの内容としては、制度等の利用への嫌がらせ型と状態への嫌がらせ型の2類型があります。
ア 制度等の利用への嫌がらせ型
制度等の利用への嫌がらせ型とは、育休や産休、育児・介護のための労働 時間短縮措置等、法律で定められた制度や措置の利用に関する言動により、就業環境が害される類型をいいます。
典型的には、これらの制度等の利用の申出に対し、上司や同僚等が「周りに迷惑をかける」等の言動をして、労働者による制度等の利用を阻害することが挙げられます。
イ 状態への嫌がらせ型
状態への嫌がらせ型とは、妊娠・出産したことやこれに起因する労働能力低下等に関する言動により、就業環境が害される類型をいいます。
典型的には、これらの事情が発生したこと等により、上司や同僚等が繰り返し又は継続的に嫌がらせ等をすることが挙げられます。
ウ 業務上の必要性に基づく言動
業務分担や安全配慮等の観点から、客観的に見て、業務上の必要性に基づく言動はハラスメントに該当しないことは各指針上も明記されており、例えば業務体制を見直すために、上司が育休の取得期間を確認することや労働者のキャリアを配慮して早期の職場復帰を促すこと、安全配慮や妊婦の体調への配慮から、つわりがしんどそうだから休んだらどうか等の提案をすることは、業務上の必要性に基づく言動として、マタハラに該当しません。もっとも、単なる提案の域を超えて、強要や暗に自粛を求めるような場合にはマタハラに該当し得ることに注意が必要です。
⑶ 労働者の同意
広島中央保険生活協同組合事件(最判平成26年10月23日)において、軽易作業への転換やこれに伴う降格等について、原則として男女雇用機会均等法違反の不利益取扱いに当たるものの、軽易業務への転換や降格により受ける有利・不利な影響、降格により受ける不利な影響の内容や程度、事業主による説明の内容等の経緯や労働者の意向に照らして、労働者の自由意思に基づく同意と認めるに足りる合理的理由が客観的に存在する場合には、例外的に、同法違反とはならない旨判示されています(なお、上記判例において、労働者の同意は得られていましたが、差戻審において、当該同意が、自由意思に基づく同意に該当しないと判断されています。)。
待遇の変更等について、労働者から同意を得られれば、紛争リスクを減らすことはできますが、不承不承の同意であったとして、上記判例のように後から争われる可能性もあります。同意を得る場合には、待遇変更による負担軽減の程度や不利な影響の内容、程度等について説明を尽くしたうえで、書面による同意を得るといった方法で、労働者の自由意思に基づく同意であることの客観的裏付けを取っておくべきですし、同意を得るにあたっては、十分な検討期間を設けておくことが望ましいです。
以上のとおり、ひと言でマタハラといっても様々な類型があり、マタハラに該当する言動なのか労働者を配慮した言動なのか判別が難しいケースもあります。企業として措置義務を遵守し、企業の社会的責任、信用を守るためにも、企業全体で正しい知識を共有するとともに、進んでマタハラ対策を講じていくべきです。
以上