男女雇用機会均等法により、すべての企業において、セクハラ防止のための雇用管理上の措置義務が課せられ、セクハラに関する厚労省の指針(以下単に「指針」といいます。)が2020年6月1日から告示されています。
近年、報道等で周知が進み、ハラスメントの種類も拡大し続けていることもあってか、ハラスメント被害による法律相談が増えている状況であり、どんな類型のセクシャルハラスメントに対して措置義務が課せられているのか、今一度、確認する必要があるかと思いますので、以下、整理させていただきます。
⑴ 総論
セクシャルハラスメントという名称のとおり、セクハラは性に関するハラスメ ントではありますが、男性から女性、あるいは女性から男性に対するものに限られません。近年はLGBTQへの理解が深まってきていることもあり、セクシャルハラスメントには、身体的性としての異性に対するものだけでなく、同性に対するものも含まれることが指針に明記されています。近年では、セクハラは身体的性差ではなく社会的性差に基づくハラスメントとしてジェンダーハラスメントと呼ばれることもあります。
⑵ 職場内部でのセクシャルハラスメント
職場内部でのセクシャルハラスメントには措置義務が課せられています。この類型のセクシャルハラスメントは対価型セクシャルハラスメントと環境型セクシャルハラスメントに分類されます。
対価型セクシャルハラスメントとは、職場において行われる性的な言動に対 する労働者の対応により当該労働者がその労働条件について不利益を受けるものをいいます。
例えば、上司が部下を何度も食事に誘ったことに対し、部下が断ったこと等を理由として当該部下への仕事の配点を減らした場合、セクハラに該当する可能性があります。
環境型セクシャルハラスメントとは、職場における労働者の意に反する性的言動により労働者の就業環境が不快なものとなったため能力発揮に重大な悪影響を生じる等、当該労働者が就業するうえで看過できない程度の支障が生じることをいいます。
例えば、結婚歴、交際関係を揶揄する言動や「~は女性の仕事」といったジェンダーバイアスに基づく業務の振り分けにより、労働者の就業意欲が低下してしまう場合、セクハラに該当する可能性があります。
⑶ 外部の者からのセクシャルハラスメント
職場外部の者から職場内部の者に対するハラスメントは、カスタマーハラスメントと呼ばれることもあります。指針における職場とは、当該労働者が業務を遂行する場所のことであり、職場における行為であれば、顧客、医療機関における患者やその家族から従業員に対する行為であっても措置義務の対象となる点に注意が必要です。
なお、カスタマーハラスメントのうち、パワハラについては措置義務の対象となっていませんが、セクハラについては対象となっており、措置義務の対象範囲が異なっている点には、特に注意が必要です。
⑷ 外部の者へのセクシャルハラスメント
外部の者へのセクシャルハラスメントについては、措置義務の対象には含まれていません。
しかし、男女雇用機会均等法や指針において、ほかの事業主が講じる調査等の措置の実施に関し、必要な協力をすべき努力義務が明記されています(同法11条3項)し、措置義務の対象とならなかったとしてもセクハラが問題となることは言うまでもありません。場合によっては、雇用主に民法上の使用者責任が生じることもあり得ますので、雇用主としてセクハラ防止策を講じるべきであることは、ほかの類型のセクハラと同様です。
以上のとおり、ひと言でセクハラといっても様々な類型があり、企業として措置義務を遵守していく必要があることは当然として、企業の社会的責任、信用を守るためにも、進んでセクハラ対策を講じていくべきです。
以上