退職金は、支給の有無、支給基準がもっぱら使用者の裁量に委ねられている限り、恩恵的給付であって賃金ではないが、就業規則、労働協約、労働契約等で支給の有無、支給基準が定められている場合は賃金と判断されます。
就業規則、労働協約、労働契約等により退職金が規定されていない場合、労働者の退職金請求権の有無が問題となることがありますが、裁判例としては、就業規則等の明確な約定に変わり得るほどの過去の支給事実等の集積が必要として、現実問題として退職金請求権を否定したケースが多く、立証、請求のハードルは高いと思われます。
企業によっては、就業規則のなかに、労働者に対して在籍中の営業秘密保持等だけでなく、退職後の競業避止義務まで規定していることもあり、これらの義務違反を理由に退職金の全額不支給や一部減額を行う例が見受けられます。これについては、労働者の職業選択の自由や営業の自由に関連してその有効性が問題となりますが、退職後同業他社へ就職する場合は自己都合による退職金の半額を支給するという退職金規定について、最高裁は、「この場合の退職金の定めは、制限違反の就職をしたことにより勤務中の功労に対する評価が減殺されて、退職金の権利そのものが一般の自己都合による退職の場合の半額の限度においてしか発生しないこととする趣旨であると解すべきである」「本件退職金が功労報償的な性格を併せ有することにかんがみれば、合理性のない措置であるとすることはできない」と判示し、有効としていますので、裁判所によって無効とされないよう、会社ごとにその具体的な基準や内容、程度を吟味する必要はあるものの、このような趣旨の規定をおいて一定の対策を講じることは企業としてありうるべきものと思われます。
死亡退職金の受給については、遺族が相続放棄している場合などに、相続財産か遺族固有の権利かが問題となることがあり、相続財産であれば相続放棄により相続人は受給権を失いますが、遺族固有の権利であれば相続放棄をしても遺族が支給を受けることができることになります。多くの裁判例は、死亡退職金の支給基準、受給権者の範囲・順序等が法令・労働協約・終業規則等で明確に規定されている場合は、所定受給権者に固有の権利であり、相続財産に当たらないと判断しています。