労働者は、労働契約中、その付随的義務の一種として、企業秘密を保持する義務を負っており、多くの企業では就業規則に規定を設けて、秘密保持義務の内容を明確化しています。そして、労働者がこのような秘密保持義務に違反した場合、就業規則に従って当該労働者を懲戒処分することや、当該労働者に対して、債務不履行、不法行為に基づく損害賠償請求等を行うことが考えられます。
他方、退職後は、雇用契約自体が終了しているため、原則として、同契約の付随義務としての秘密保持義務は発生しないことから、退職者に秘密保持義務を課すには、個別に秘密保持契約を締結することが有効となります。
退職後の秘密保持契約については、当該企業秘密の漏洩を防止することによって確保しようとする企業の正当な利益の具体的内容等との関係で、秘密保持義務を課す従業員の在職中の地位、守秘義務を負担させる期間、地理的範囲等が合理的になっているか否か、代償措置の有無、程度等を検討する必要があり、仮に、秘密保持契約の秘密の範囲が抽象的で過度に広範であったり、期間が不当に長期にわたる等、退職者の職業選択の自由を過度に制約する場合、公序良俗違反により無効と判断される可能性があるため注意が必要です。
なお、不正競争防止法は、「営業秘密」を「秘密として管理されている生産方法、販売方法その他の事業活動に有用な技術上又は営業上の情報であって、公然と知られていないもの」(同法2条6項)と定義したうえで、「営業秘密」の不正な取得、使用、開示を「不正競争」と規制しており、これにより、労働者は、在職中、退職後を問わず、「営業秘密」を保持すべき義務を負うとされるものですが、このような定義に当てはまる管理をしているか、営業秘密を守るには、契約だけでなく、制度や仕組みについても整備する必要があることには注意を要するものです。