降格には、懲戒処分としての降格と、人事権に基づく業務命令による降格があります。
懲戒処分としての降格は、懲戒処分としての法規制をうけるため、懲戒の理由となる事由とこれに対する懲戒の種類・程度が就業規則上明記されていなければなりません。
また、使用者が労働者を懲戒することができる場合において、当該懲戒が、当該懲戒に係る労働者の行為の性質及び態様その他の事情に照らして、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合には、その権利を濫用したものとして、当該懲戒は無効となります(労働契約法15条)。
これに対して、営業所長を営業所の成績不振を理由に営業社員に降格する場合等については、労働者を特定の職務やポストのために雇い入れるのではなく、職業能力の発展に応じて諸種の職務やポストに配置していく長期雇用システムにおいては、労働契約上当然に、使用者の権限として予定されているものであり、裁判例においても、就業規則に根拠規定がなくとも人事権の行使として裁量的判断により可能であるとされています(人事権に基づく業務命令による降格)。
もっとも、このような人事権も当該労働者の職種に関する労働契約の合意の大枠のなかで行使できるものであり、労働者が業務成績不良であるため、労働者に対し当初の契約内容とは異なるより低いレベルの職種への降格を命じ、この降格に伴って、降格後の職種の他の従業員と同等の賃金額に減額することは、労働契約の合意の枠を超えるものとして一方的措置としては許されないものと考えられますし、また、労働契約の枠内であったとしても、退職勧奨に応じない管理職を退職に誘導するために賃金が大幅に低下する降格を行う場合など、降格に相当な理由がなく、本人の不利益が大きい場合には、人事権の濫用に当たるとして、当該降格が無効となる場合があります。